その男"天峰 浩二"

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天峰(参ったな…ラケットなんて握れねぇ) ラケットを見るだけでも記憶は甦るのに。 『お待ちどうさん』 そんな事を考えている内に、白玉がラケットを取ってきた。 『ほれ、これ使い』 白玉がラケットのグリップを天峰に向け手渡した。 白玉のラケットはシェークハンド。両面で打てるタイプだった。 しかし、そんなことは天峰にとってはどうでもよかった。 『あ…あぁ』 天峰は恐る恐るそれを受け取る。 この感触… 『俺が相手になるから、台に付いてや。ん?』 白玉はラケットを持った腕がプルプルと震えている天峰に気がついた。 『どないしたん?』 『いや、別に』 天峰はそう答えて白玉と向かい側の台に付いた。 火柱『緊張しなくてもいいよ浩二!楽に楽に』 白玉『その通りやで!力を抜いて楽にや』 天峰はラケットをジッと見詰めていて、2人の言葉など耳に入っていない様子だった。 『浩二?…浩二!』 夏希に2回呼ばれてようやくハッとした天峰。 『え?何?』 『もぉ…緊張し過ぎだよ!頑張ってね!』 ニコッと笑顔を天峰に向ける。 『ほな、いくで』 カッ! 白玉が無回転のサーブを天峰のフォアに出した。 天峰は反射的にラケットが出た。 ラケットがボールに触れる。 この打球感…この球の音… 『お!綺麗なフォームやん』 白玉の返球。 フラッシュバックのように甦るあの日の光景。 『…ッ』 天峰は球を無視して白玉のラケットを台に置いた。 『ごめん』 『え?どうしたの浩二?』 天峰はそう言うと夏希を無視してスタスタと階段を上がって言った。 『どしたのさ?浩二!』 火柱は驚いて目を丸くしている。 『え、なんや?怒った?』 『そんなんじゃないよ』 階段を登りながら白玉に答えると天峰は足を速めた。 『ちょっと待ってよ!』 夏希が後を追う。 『ごめんねカゲちゃん!帰るね』 『あ…うん』 火柱は呆然としながら目で天峰を追っていた。 『あれ?先輩帰っちゃうンスか?』 天峰が靴を履き替えていると寛大が話しかけてきた。 『あぁ、2人に悪いって言っといてくれ』 『ちょっと!浩二!』 走って天峰を追いかけてきた夏希は息が上がっている。 『姉ちゃんも帰るの?』 『うん!気を付けて帰ってきなさいよ』 夏希はそう言うと天峰に付いていった。
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