その男"天峰 浩二"

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『ちょっと待ってよ!』 夏希が天峰の後を追う。 天峰は返事もせずに歩いて行く。 『浩二!』 再び名前を呼ぶが、それでも返事をしない。 夏希は腕を掴んで天峰を止めた。 『何?』 『何じゃないよ!どしたの?急に帰るなんて』 『…なんでもないよ』 『嘘!何かあるんでしょ?』 天峰は何とかして隠そうと思ったが、流石に無理だと思ったのか、重々しく口を開いた。 『俺は…卓球が出来ないんだよ』 『え?』 声が小さく聞き取れなかった夏希が聞き返す。 『卓球が出来ないんだ』 『なんで?』 予想だにしていなかった答えに夏希は驚いた様子で問うた。 『あまり詳しくは言えないけど…昔、ラケットで親友を傷付けたんだよ』 『…』 夏希はギュッと握った拳を震わせながら話す天峰に、これ以上は質問できないと思った。 『本当は卓球場にも行きたくなかった。けれどせっかく誘ってくれたんだし、行ってみるだけ行ってみたけど…やっぱり無理だ。俺は卓球ができないんだ』 そう言って天峰は再び歩き出した。 夏希は黙ってその場に立ち尽くしていたが、しばらくして天峰に付いていった。 『ねぇ』 『ん?』 『卓球嫌いになったの?』 『昔は好きだったよ』 天峰は夏希の顔を見ることなく答えた。 『今は嫌いなの?』 『…嫌いだよ』 『そっかぁ…ごめんね。聞かなければよかったね』 夏希の言葉を最後に、沈黙が続く。 『じゃあアタシが浩二に卓球を好きにさせてあげる』 『は?』 『だから、アタシがもう一度浩二に卓球をさせてあげるって言ってるの』 言ってる意味が分からない。 『どうやって?』 『アタシも卓球部に入るよ』 夏希はグッと拳を作って言った。 『何をしても無理だよ…やりたくないんじゃない。出来ないんだから…』 『…じゃあ、アタシが卓球を練習して浩二と一緒に打てるようになるよ』 『…勝手にしろよ』 どうせそんなこと出来るわけない。 『なんでそこまでお節介やくの?』 『アタシ困ってる人ほっとけないんだ♪』 気になって質問した天峰に、夏希はニコッと笑って答えのだった。
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