530人が本棚に入れています
本棚に追加
『ちょっと待ってよ!』
夏希が天峰の後を追う。
天峰は返事もせずに歩いて行く。
『浩二!』
再び名前を呼ぶが、それでも返事をしない。
夏希は腕を掴んで天峰を止めた。
『何?』
『何じゃないよ!どしたの?急に帰るなんて』
『…なんでもないよ』
『嘘!何かあるんでしょ?』
天峰は何とかして隠そうと思ったが、流石に無理だと思ったのか、重々しく口を開いた。
『俺は…卓球が出来ないんだよ』
『え?』
声が小さく聞き取れなかった夏希が聞き返す。
『卓球が出来ないんだ』
『なんで?』
予想だにしていなかった答えに夏希は驚いた様子で問うた。
『あまり詳しくは言えないけど…昔、ラケットで親友を傷付けたんだよ』
『…』
夏希はギュッと握った拳を震わせながら話す天峰に、これ以上は質問できないと思った。
『本当は卓球場にも行きたくなかった。けれどせっかく誘ってくれたんだし、行ってみるだけ行ってみたけど…やっぱり無理だ。俺は卓球ができないんだ』
そう言って天峰は再び歩き出した。
夏希は黙ってその場に立ち尽くしていたが、しばらくして天峰に付いていった。
『ねぇ』
『ん?』
『卓球嫌いになったの?』
『昔は好きだったよ』
天峰は夏希の顔を見ることなく答えた。
『今は嫌いなの?』
『…嫌いだよ』
『そっかぁ…ごめんね。聞かなければよかったね』
夏希の言葉を最後に、沈黙が続く。
『じゃあアタシが浩二に卓球を好きにさせてあげる』
『は?』
『だから、アタシがもう一度浩二に卓球をさせてあげるって言ってるの』
言ってる意味が分からない。
『どうやって?』
『アタシも卓球部に入るよ』
夏希はグッと拳を作って言った。
『何をしても無理だよ…やりたくないんじゃない。出来ないんだから…』
『…じゃあ、アタシが卓球を練習して浩二と一緒に打てるようになるよ』
『…勝手にしろよ』
どうせそんなこと出来るわけない。
『なんでそこまでお節介やくの?』
『アタシ困ってる人ほっとけないんだ♪』
気になって質問した天峰に、夏希はニコッと笑って答えのだった。
最初のコメントを投稿しよう!