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翌日。
天峰が教室に入るとすぐに火柱がやってきた。
『浩二、昨日は無理に誘ってごめんね。あまり乗り気じゃなかったもんね…』
『いや、こっちこそ急に帰ってごめん』
重苦しい空気である。
火柱も天峰が急に帰ったことには深刻な理由があると悟っているのだろう。
帰った理由は聞いて来なかった。
『そう言えば、昨日寛大からメールが来たんだけど、三谷さんが今日から仮入部に来るんだって』
『…そうなんだ』
どうやら昨日言ってたことは本当らしい。
(本気で俺に卓球をさせようと思ってるのか?)
天峰はまだ来ていない夏希の席を見た。
『おはよう♪』
暫くすると夏希はやって来た。
『あぁ、おはよう』
『今日も1日頑張ろうね♪』
夏希は昨日の話はしてこなかった。
しかし、エナメル製のバックを持ってきていると言うことは卓球場に行くのだろう。
『無理しなくていいよ』
全く"そこ"に触れてこない夏希に天峰から話した。
『無理してないよ』
『俺、昨日来たばかりだぜ?そこまでしなくても…』
『アタシたち幼なじみでしょ♪』
何を言っても無駄みたいだ。
放課後、夏希は火柱と一緒に教室を出ていった。翌日も、その翌日も夏希は卓球場へ向かっているようだった。
それから1週間が経った。
『浩二!』
夏希が卓球場に行くのを確認した後、教室を出たところでその日は声をかけられた。
聞き覚えのある声。
『白玉…』
『季楽でええって!久しぶりやな』
最後に話したのは先週の卓球場だった。
『どしたんだ?』
『まぁ、ちょっと付き合えや』
ニカッと笑って言う。
『心配せんでも卓球場には行かん。浩二にはなんか訳アリみたいやしな。ま、深くは聞かんけどな』
白玉も悟っているようだった。
『で、話しって?』
『そやったな!』
ヘラヘラしていた態度が一変して真剣な顔付きになる。
『三谷さんのことやけど、浩二の為に部活に来よるような気がしてな』
答えにくい天峰は返事をしない。
『答えんでもええ。俺がそう思っとるだけかもしれんしな。ただ、もしそうやとしたら彼女のためにももう一度だけ卓球場に来てもええんやないか?』
『…考えとく』
天峰はそう言って白玉の元を去った。
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