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家に着いた天峰はラケットを閉まってあるクローゼットを開けた。
取り出したのは勿論ラケット。
『もう1度俺に協力してくれ』
深呼吸をしてそれを握る。
『…ッ!』
やはり蘇るあの光景。
ラケットを落としてしまった。
『情けないな、オレ』
そう言ってベッドに仰向けに寝転んだ。
『…』
暫く横になっていた天峰は体を起こし、夏希に貰ったプレゼントを袋から取り出した。
包装を剥がしていくと出てきたのは箱に入ったままのラケット。
箱を手に取るとヒラヒラと手紙が落ちてきた。
「このラケットなら大丈夫だよ♪」
1行の文に目頭が熱くなる。
箱から貰ったラケットを取り出した。
『大丈夫…大丈夫…』
暗示をかけるように呟きながらグリップを握る。
『…』
じわじわと広がる光景。
やっぱ無理か?
『いや…無理じゃない。無理じゃねぇよ!』
ラケットからは手を離さない。
火柱、白玉、そして夏希…
『期待に応えたいんだよ…』
どれくらい時間が経っただろう。
実際には数秒かもしれない。
しかし、天峰に取っては長い時間だった。
あの光景は消えた。
ラケットは握ったままである。
『やった…』
汗ばんだ両手。
『俺の勝ちだ』
フッと口元をゆるめ、ラケットを置いた。
すぐさまそれを手にするが平気。
完全に自分のトラウマを攻略していた。
(月曜日にもう一度卓球場にでも行くか)
天峰の中に生まれた感情は今までとは一変し、自分でも信じられない"打ってみたい"だった。
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