その男"天峰 浩二"

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昨日まで大雪だったのに、今日は快晴である。 気温も昨日よりは幾分高い。 (転入日には良いだな) 転入先の学校の玄関前で立ち止まると、天峰(アマミネ)は学校を見上げた。 福岡県北九州市"青朋(ショウホウ)中学校"。 天峰の見上げている学校の名前である。 転入と言っても引っ越す前に住んでいたのは隣町だった。 さらに言うと、小学校の低学年のころまでは借家を借りてこの町に住んでいた。 しかし、一軒家を買うと言うことで隣町に引っ越したのだ。 引っ越した先もこの町に限りなく近く、隣町の小学校よりこの町の小学校が近いくらいだった。 だから、登校するのに30分以上掛かっていたのを覚えている。 中学に入ると更に距離が離れ、途中にあるスーパーまで禁止されていた自転車で通っていた。 ふと、なぜこの学校に来ることになったんだろうと思い返してみる。 登校が大変だったからこの町の中学校に引っ越して来た? 違う。 いじめを受けた? 違う。 前の学校には行きたくなかった。 もちろん理由はある。 もう約束が守れないから。 約束を守れない自分が嫌だったから… 天峰は視線を足元に落として目を瞑った。 約束の言葉があの日の事故と一緒に頭の中を飛び交った。 『大丈夫?』 後ろから母親が心配して声をかけた。 『大丈夫』 天峰は目を開くと玄関の中へと入って行った。
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