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季節は冬。
秋が過ぎてとても寒く感じる季節は…少し寂しさすら感じさせる。
竜之介はそんな空を窓から眺めていた。
彼の名前は高峰竜之介。
正真正銘、普通の高校生である。
彼の趣味は推理小説を読む事。
いわゆる典型的な推理小説オタクである。
でもそんな竜之介には隠れた才能が有って、それに気付いたのは、つい最近の事だった。
その日竜之介は、母親と華夜に言われた、
「そんなのばっかり読んでて本当の事件に巻き込まれても知らないよ」
と言う言葉通り、事件に巻き込まれてしまう。
勿論竜之介は興味を示さない。
何故なら、自分は普通の高校生以外の何でもないのだから。
名探偵の血を引いていたりとか、生まれもって才能に恵まれた探偵なんかと違って、自分はただ推理小説を読んでいるだけのド素人。
警察でも探偵でもない。
とは言え友達を見殺しにする事なんて出来ない。
出来ることなら助けたい。
そんな思いを胸に、竜之介は立ち上がる。
その時が、今まで生かされる事の無かった才能が一斉に働き始めた瞬間だった。
そしてこれが……素人探偵高峰竜之介の誕生なのである。
「竜之介!良い物を買って来たわよ。」
そう言って母親は竜之介に手帳を差し出す。
「手帳?」
竜之介はそれを受け取りながら聞く。
「あんたも素人探偵なんだから手帳くらいは持ってなさい。」
母親はそう言って期待の眼差しを向ける。
「俺はただの推理小説オタクだ。」
竜之介は呆れた顔で言う。
「普段言われたら怒る癖に言うときは言うのね?」
母親はムッとする。
「それにこれ以上事件に巻き込まれるなんてごめんだね。」
竜之介はそう言って自分の部屋に戻ってしまった。
「まあ……確かに事件なんか無ければ良いって言うのは当たり前ね……。
ちょっと調子に乗りすぎたかしら……?」
母親はそう言って竜之介の部屋の方向に目を向けて呟いた。
「でも……今まで夢を語ろうともしなかったあんたがこうやって才能に恵まれているって言われたら……期待したくなるのは仕方無いんだよ。」
母親は机に置かれた手帳をそっと部屋の前に置いてからリビングに戻った。
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