始まりの事故

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渡貫槊也と書かれている病室の前に立つ… 一人部屋か… その病室は聖奈ほどでは無かったが、それなりの金持ちが泊まりそうな病室であった。 「渡貫様、水前寺様です」 そう言ってから、にこっと看護師は笑って聖奈を招き入れる。 「失礼します…」 おずおずと聖奈が入ったのを見届けると、看護師は一例してから病室を出た。 「……」 返事はなかった、「寝ているのかしら…」 そう思って聖奈が病室の奥を覗くと、両足にギブスをはめた槊也が目に入った。 「こんにちは…」 とりあえず挨拶をしてその場に立つ。 「お前…言いたいことはそれだけか?」 キッと槊也は聖奈を睨んだ。 「言いたい事って…」 思ってもみなかった槊也の発言に聖奈は言葉を失う… 「足が痛そうです…」 とっさに何か言おうとして聖奈が発した一言は、なんともマヌケなものだった… 槊也が見つめているのがわかる… 恥ずかしい…! 顔中がほてっていくのを感じながら聖奈は下を向いて黙った。 ゴトッ…ドサッ… 槊也が動いている音が聞こえた。 「やっぱり、ばか女だな…」 車椅子の音と共に槊也の声が近付いてくる。聖奈の視界にギブスの足が見えた。 「もう少し遊んでからにしようと思ってたが…」 ふぅ…と槊也は溜め息をついてから 「こっちを見ろ、ばか女…」 「またばかって言われた…」激しく落ち込みながら、聖奈はなるようになればいい…やけくそになって槊也の顔を睨んだ。 「抵抗する気か…」 楽しそうに槊也は笑う。 「偉そうに言わないで下さい。あなたを見ると気分が悪いです」 聖奈がそう言った途端「けほっ…」息が出来ない…!! 気付けば槊也の手が聖奈の首に回っていた…首を絞める手に力が入る… 苦しい……首に回った手を取り払おうと聖奈はもがくが、全く効果が無かった。 もう駄目だ…そう思った瞬間、力が緩められた。 「ごほっ…ごほっ…!」 聖奈は苦しさのあまり、しゃがみ込んで咳込む… すっと槊也の顔が近付いてきて聖奈に耳打ちした… 「この怪我のせいで退院出来ないんだよなぁ…」 ゾクッと悪寒を覚えて槊也から離れる。 「何が…何が望みなの…?」 体じゅうの震えを感じながら聖奈は聞いた。 「望みか…俺の言いたいことがわかる程度の頭は持ってるんだな…」 頬に手をつきながら、聖奈を見下ろして槊也が笑う。
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