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「なぁ…父さん。俺の一生に一度の頼みを聞いてくれ…」
消灯の時間がすぎ、薄暗い病室の中で声が響く…
「事と次第によれば考えてあげてもいいけど…でも君が一生に一度なんて言ったら、いささかきつい表現だなぁ…」
父さん…そう呼ばれた人間は苦笑しながら、ぽりぽり頭を掻いた。
「なんだい?槊也(さくや)」
あの無礼な怪我人の名は槊也と言うらしい…
クスッと槊也は笑ってベッドから、父親を見上げた。
「今回の事故で、渡貫槊也(わたぬき さくや)は両足骨折…ってのはどう?」
槊也はパシパシと両足を叩きながら笑う。
「槊也…君なにを考えてるんだ?」
事故のせいで、頭でもおかしくなったのか?そんな顔をしながら父親は言った。
「その程度なら、お願い聞いてあげてもいいけど、でもちゃんと理由がないと協力しないからね」
事故で負った槊也の怪我は、外傷がひどいだけで、骨折をするような怪我ではなかった。
本来ならそれを喜ぶべきであるのにこのばか息子ときたら…
「人間観察のネタに…珍しい生き物見つけたから、遊ぼうと思って」
槊也は頬に手を置きながら、くすっと怪しげに笑った…
そんな息子の様子を見ながら父親は言った…
「遊ぶって…そんな時間が君にあると思ってるの?」
真顔で槊也の顔を見る。
「大体生き物って…車の運転していた人を脅すとか、そんなことなら許可出来ないからね」
「違う…あの場にいた女だよ」
信じられない…そんな顔で父親は槊也を見た。
「まさか好きになったとかじゃないよね…君はもう…」
「うるさいんだよ!」
バンッ!!机を叩く音で会話が遮られた…
「なぁ父さん…俺を母さんの二の舞にしたい訳?」
そう静かに言った槊也の顔は、月明かりに照らされてこの世のものとは思えな美しさをたたえていた…
ゾクッ……
背筋に悪寒を覚えて、父親は思わず槊也から離れた…
「どうする?父さん…」
さらに槊也は言及する。
しばらく黙った後に「……君の言うとおりにするよ……」そう言って父親は病室をあとにした。
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