帽子の紳士とリストカットの淑女

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私は薄暗い店の中を見回した。 壁に沢山かけられた黒くてヒラヒラとしたお洋服。 私の着ている服とは全く違う可憐で繊細そうな布地やレース。 所々に置かれた白いアンティークな椅子やテーブル、見たこともない絵画。 まるで私は不思議の国に来たアリスのようにもの珍しそうに店の中を見ていた。 「いらっしゃいませ」 低くてよく響く声が薔薇の匂いの漂う店内に響く 私は彼の姿を見て言葉を失った。 細くすらりと長い彼はシルクハットを被っていて、まるで映画に出てくるような格好。 「なにかお探しでしょうか?」 ニッコリと笑みを浮かべてゆっくりと店の奥から近づいてくる彼はとてもこの灰色の世界とはかけ離れた存在でとても… 私は言葉を失い、ただ彼をぼんやりと見ていた。 さすがに彼も私の反応に苦笑を浮かべ優しく首をかしげたまま言葉を綴る 「もしかして…迷子ですか?」 ただただ首を降るだけの私。困り果てた彼。 勇気を持って口を開いてみた。言葉を久し振りに発したような気がした。 「あ…ショーウィンドウの黒いうさぎの人形を見てなんのお店かな…って」
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