帽子の紳士とリストカットの淑女

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「だったし?」 口ごもる私の顔を見ながら紅茶を啜る黒蝶の向かえのトールはクッキーを口にしながら私を見た。 「いや、何でもないです」 首を緩く振って吊られるように紅茶を一口飲んだ 「それは、フランスから取り寄せた紅茶なんですよ。ローズヒップの香りが素晴らしいですよね」 紅茶に酔いしれたようにトールが口を開く 「私達毎日飲んでるの、これを飲みながらここにいることが私達の安らぎなの。」 「えぇ、そうなんですよ。うさぎさんもここの店に入ってお茶をしてるということは…私達と同じ考えを持っていると言うことではないのでしょうか?」 唐突なトールの言葉にとまどってしまった…でも、気になる。同じ考えとは…? 「あ、あの…どういうことですか?」 「もう現実は信じない…もう現実は信じられない…もう現実を信じるのが怖い…私達、いつもの生活に飽きたの…」 私は身震いがした…鳥肌がぞわっと立った 現実…その言葉が頭を廻る 私がこの世界に飽き飽きしていたのは現実への恐怖だったのかも… 「…この店に特に訳もなく来る人の大半がそういった考えを持っているのです」
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