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「恭ちゃん大好き。私がお婆ちゃんになっても心配してくれる?」
「馬鹿言うなよ。心配かけない努力をしなさい」
恭一は笑いながら答えた。
郁も笑う。
郁は昔から恭一に対して"好き"という言葉を普通に使う。
もちろん郁は本気で言っている。
しかし使い慣れてしまったその言葉は郁の意図する意味として正確には伝わっていない。
悲しいけれど今の郁にはそれ以上踏み込む勇気がない。
恭一が車のエンジンを止めた。
そこは高台にある公園。
昼間は何度か来た事がある。
車を下りて少し歩くと休憩する為の広場がある。
木でできた椅子が四つ、大きな大木の周りを囲んで設置されている。
広場を挟んだ向こう側には小さなグラウンドがある。
昔、恭一と郁はそこで何度が競争したが、一度も勝った記憶はない。
恭一は目で合図をした。
「…やるか」
「望むところ」
二人はスタートラインに立ち、恭一の掛け声で走り出した。
郁は全力で駆け抜けた。
しかし、やはり恭一には勝てない。
みるみる恭一の背中は離れていく。
待って、行かないで。
郁は必死に追いつこうとするが、引き離される。
昔より郁と恭一の差はひらいていた。
「やっぱり俺の勝ち。年にはかなわないなぁ、体力足りねぇ」
呼吸を荒くしながら恭一は言った。
「おじさんに負けたかぁ」
郁は余計な事を考えては卑屈になる自分が嫌いだった。
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