第一章 きっかけ

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佳織は郁が恭一の事を好きだという事を知っている。 郁は何かあった時には必ず佳織達に相談する。 皆はその都度郁を励ましてくれる。 一通り話した後、郁は話題を変えた。 「そう言えばさぁ、昨日かおに貰ったメール睦にも送ったんだ。一緒にいたから」 「また夜ふらふらして。で、どうだった?」 郁は苦笑いした。 「睦は三人メル友作ったみたいだよ。あたしはとりあえず二人。返事したのはね」 「へぇ」 なるほど、といった顔で佳織は郁を見る。 「あたしも一人メル友作ったんだ」 郁は不思議に思った。 佳織には彼がいる。修一さんという年上の彼が。 メル友なんて作っていいのだろうか。 「かお、修一さんいるのにいいの?」 「いいのいいの、あいつだって好きなようにやってるんだから」 佳織は膨れっ面になった。 でも郁はそんな佳織が羨ましがった。 何だかんだ言って幸せなのだ。 電車を下りて学校に着く頃に佳織は部活の話しをした。 「そろそろ文化祭でやる劇決めるらしいよ。三年はそれで引退だから最後くらい郁ちゃんも出てほしいなぁ、って。先生から伝言。あたしももぅ一回郁ちゃんと舞台立ちたいなぁ」 三年になると普段の授業の他に進路についてのオリエンテーリングが開かれる。 大学や専門学校、就職についての先生達が詳しく説明する。 そこでいろいろな話しを聞いた上で、皆進路を決めていく。 七月になると希望を提出し、それぞれに分かれて指導を受ける。 郁達の学校は進学校だったので、皆大学や専門学校の説明をよく聞き、質問もその二つについて集中した。 しかし郁の耳には殆ど入っていなかった。 初めから進学するつもりなどない郁にはどうでも良い話しだった。 希望提出までは三カ月ほど時間がある。 きっと殆どの人が悩むはずだ。 郁にはやりたい事がない。特にこれと言って学びたい事も。 だからこそ普通は大学に進むのだろう。 それは分かっていた。 でもだからこそ郁は就職を選んだ。 ただやりたい事もなく、今のようになんとなく学校に通い、親に依存するのが嫌だった。 早く自立したい。 後に進学を選ばなかった事に後悔するだろうか。 それでもいい。 そんな事はその時に考えればいい事なのだから。
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