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佳織は郁が恭一の事を好きだという事を知っている。
郁は何かあった時には必ず佳織達に相談する。
皆はその都度郁を励ましてくれる。
一通り話した後、郁は話題を変えた。
「そう言えばさぁ、昨日かおに貰ったメール睦にも送ったんだ。一緒にいたから」
「また夜ふらふらして。で、どうだった?」
郁は苦笑いした。
「睦は三人メル友作ったみたいだよ。あたしはとりあえず二人。返事したのはね」
「へぇ」
なるほど、といった顔で佳織は郁を見る。
「あたしも一人メル友作ったんだ」
郁は不思議に思った。
佳織には彼がいる。修一さんという年上の彼が。
メル友なんて作っていいのだろうか。
「かお、修一さんいるのにいいの?」
「いいのいいの、あいつだって好きなようにやってるんだから」
佳織は膨れっ面になった。
でも郁はそんな佳織が羨ましがった。
何だかんだ言って幸せなのだ。
電車を下りて学校に着く頃に佳織は部活の話しをした。
「そろそろ文化祭でやる劇決めるらしいよ。三年はそれで引退だから最後くらい郁ちゃんも出てほしいなぁ、って。先生から伝言。あたしももぅ一回郁ちゃんと舞台立ちたいなぁ」
三年になると普段の授業の他に進路についてのオリエンテーリングが開かれる。
大学や専門学校、就職についての先生達が詳しく説明する。
そこでいろいろな話しを聞いた上で、皆進路を決めていく。
七月になると希望を提出し、それぞれに分かれて指導を受ける。
郁達の学校は進学校だったので、皆大学や専門学校の説明をよく聞き、質問もその二つについて集中した。
しかし郁の耳には殆ど入っていなかった。
初めから進学するつもりなどない郁にはどうでも良い話しだった。
希望提出までは三カ月ほど時間がある。
きっと殆どの人が悩むはずだ。
郁にはやりたい事がない。特にこれと言って学びたい事も。
だからこそ普通は大学に進むのだろう。
それは分かっていた。
でもだからこそ郁は就職を選んだ。
ただやりたい事もなく、今のようになんとなく学校に通い、親に依存するのが嫌だった。
早く自立したい。
後に進学を選ばなかった事に後悔するだろうか。
それでもいい。
そんな事はその時に考えればいい事なのだから。
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