第一章 きっかけ

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教室にはまだ何人かの生徒が残っていた。 すぐに二人の生徒に声を掛けられる。 「いくちゃん、おはよう」 「久しぶり。相変わらずだね。ホームルーム終わったよ」 先に声を掛けてきたのが春子。成績優秀でおしとやか。その反面、芸能、お笑いなどの話にとても詳しい。 後者が朔。 少々男勝りな性格で運動神経も抜群。 二人は高校に入ってからの友達で偶然にも二年間同じクラスになる事ができた。 「もう体育館行くでしょ」 郁が聞くと二人は頷いた。 体育館履きを用意して二人の所まで急いだ。 壇上には新学期の挨拶をする校長の姿がある。 こんな時くらいしか目にする事はないので顔などほとんど覚えていない。 ちらっと視線をずらすと端の方で腕を組んで立っている担任と目が合った。 郁はすぐに目を反らした。 新学期早々遅刻なんかして…と言われている様で内心少し焦った。 背中をトントンとつつかれる。 少しだけ顔を向けて体を後ろに反らす。 「今見てたね、新井先生。後で呼ばれないといいね、いく」 朔が小声で呟く。 「適当に交わすから大丈夫」 そう言って小さくガッツポーズを見せた。 郁の友達のほとんどは郁の事を"いくちゃん""いく"と呼ぶ。 本当は"かおる"と読む。 初対面の人は大抵"いく"と読む。 皆その時のまま直さすに定着してしまう。 ちゃんと名前を呼んでくれるのは家族と幼なじみの恭一だけだった。 始業式が終わると新しいクラス割の書かれた紙が配られた。 郁は自分の名前を探した。 三年三組。 割と上の方に郁の名前はあった。 少し下の方に春子と朔の名前もある。ほっとため息をついた。 主に学校の中でしか親しくしていない友人と言うと少し寂しい感じもするが、学校生活の中ではこういう友達が大切なのである。 「結局三年間同じクラスだったね」 「よっぽど運がいいんだね」 「担任までまた一緒だしね」 三人は休みの間の事、新しいクラスの事などを話しながら教室へ移動をはじめた。
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