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隣を歩いているのは戸部睦。
睦とは中学の時に知り合った。
家が近かったので頻繁に遊ぶようになった。
睦は中学卒業後他の生徒達のように高校受験の道は選択しなかった。
睦の両親もそれに対して反対する事もなかったらしい。
今は適当にバイトをしながら夜だけ家に帰るという生活。
いわゆるフリーターだ。
睦が夜しか帰らない理由。
息苦しい、誰かと一緒にいる事で気分を紛らわせる事ができるから。
結局只淋しいだけ。それは郁も同じだった。
二人はお互い学校やバイトが終わるまでフラフラと時間を潰す。
それから深夜、日付けが変わる頃まで一緒に過ごす。
近所の公園…
カラオケ…
時には電車に乗ってふらっと遠出したりもした。
しかし殆どは地元のファミレスでおしゃべりをして過ごした。
ドリンクバーだけで何時間も居座る客。
店からしたらいい迷惑だろう。
この位の年頃の子供にはよく見られる事で、家に帰りたくない、と何かに反抗したり無性に淋しくなったり。
心が大人になりきれず子供のままではいられない。
何かに押しつぶされそうになりながらぎりぎりの所で踏みとどまる。
不安定な自分にどうしていいのかわからなくなる。
正に、郁や睦もその中の一人。
二人は薄暗くなった道を並んで歩きながら今日の目的地を決める。
「睦、どっか行きたい所ある?」
「いや、特に」
いつもの会話。
こんな日は決まってファミレスへ向かう。
待ち合わせ場所から店まではだいたい二十分。
そろそろ夕食の時間帯。お店も混み始める時間。
二人は何をするわけでもない、時間はたっぷりある。
急ぐ理由もないので他愛ない会話をしながら歩いた。
店に着くとまだそれほど混んではいない。
店の人にテーブルまで通される。
もう顔も覚えられている様だ。
「いつもの席でよろしいですか?」
と声を掛けられ、はい、と頷く。
通された席は喫煙席側の一番奥の席。
席についてメニューを開く。
郁は二カ月程前から煙草を吸っている。
きっかけは睦。
バイト先の友達に貰ったと言って郁にも勧めた。
もちろん二人とも未成年。いけない事は重々承知の上だ。
少し大人びた容姿の二人は大抵疑われる事なく喫煙席へ通される。
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