15人が本棚に入れています
本棚に追加
華子は静かに口を開き、香織に話し始めた
「その写真は、皆さんが■■温泉に慰安旅行に来た時の一枚です
あの人が言ってました
奥様が、あの人の引退旅行だからと言って、参加してくれた
最初で最後の旅行だと
嬉しそうに、私に話してくれました
香織は、いや、奥様は、仕事に関しては一切、口を出さない人だったとも言ってました
しかも、家の中が火の車で、食うものも食わずに居た時も、息子達の躾や進路で悩んでる時も、あの人には愚痴の一つも溢さなかった
奥様は、とても強い人間だとも言ってました」
と華子が香織を見つめながら言うと、香織はうすらっと目頭に涙を貯めながら、首を左右に振った
「あの人と、私が出会ったのは、あの人が死ぬ一年前でした
しかも、奥様の思い出の地、■■温泉で、出会いました
きっかけは、私は■■温泉の芸者の修行中に、姉さん達と一緒に、あの人の座敷に上がらせて貰いました
最初は黙って、私がお酌する酒を飲みながら、姉さん達の芸を見てました
お銚子が、二本、三本と進むにつれ、口も滑らかになったのか?
二年前に、ここを訪れた時の事を話してくれました
そして、一枚の写真を取出し、そう、その写真を見せられた時は、本当に、驚きました
そこに、写っているのは、あの人と奥様と・・・
高校生の私が写ってました
あの人は、写真の私を指を差し、この子を捜しにここを訪れたと言い
なんで?と私が聞くと
奥様が初めてあの人に、おねだりした、あの美味しい、饅頭を買いたいと
そして、それを奥様の誕生日に祝いに、添えたいと
だが最近、年の所為か?物忘れが激しい、どこで買ったのか思い出せない
すると、この写真の事を思い出し、この子に聞いてみたらわかるかもしれんと、この写真を手に持って、ここを訪れた
だが、この年寄りではちと難しいかもしれんと、淋しそうに言うと
華ちゃん、華ちゃんのじゃないの?
この写真の娘
姉さんの一人が言うと
どれどれ、可愛いねぇ
今も可愛いけど
ともう、一人の姉さんが言った
姉さん方、この子を知っているのか?
ありがたい、どこ居るのか教えてくれ?とあの人が聞くと
姉さん達は、目を丸くして見つめ合い、吹き出しながら
さっきから、目の前に居るじゃない、そう、その娘が華ちゃんだよ
と言われて、私は頭を下げると、あの人も、大声で笑ってました
これが私とあの人の、愛の始まりでした」
最初のコメントを投稿しよう!