思い出交換

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華子は静かに口を開き、香織に話し始めた 「その写真は、皆さんが■■温泉に慰安旅行に来た時の一枚です あの人が言ってました 奥様が、あの人の引退旅行だからと言って、参加してくれた 最初で最後の旅行だと 嬉しそうに、私に話してくれました 香織は、いや、奥様は、仕事に関しては一切、口を出さない人だったとも言ってました しかも、家の中が火の車で、食うものも食わずに居た時も、息子達の躾や進路で悩んでる時も、あの人には愚痴の一つも溢さなかった 奥様は、とても強い人間だとも言ってました」 と華子が香織を見つめながら言うと、香織はうすらっと目頭に涙を貯めながら、首を左右に振った 「あの人と、私が出会ったのは、あの人が死ぬ一年前でした しかも、奥様の思い出の地、■■温泉で、出会いました きっかけは、私は■■温泉の芸者の修行中に、姉さん達と一緒に、あの人の座敷に上がらせて貰いました 最初は黙って、私がお酌する酒を飲みながら、姉さん達の芸を見てました お銚子が、二本、三本と進むにつれ、口も滑らかになったのか? 二年前に、ここを訪れた時の事を話してくれました そして、一枚の写真を取出し、そう、その写真を見せられた時は、本当に、驚きました そこに、写っているのは、あの人と奥様と・・・ 高校生の私が写ってました あの人は、写真の私を指を差し、この子を捜しにここを訪れたと言い なんで?と私が聞くと 奥様が初めてあの人に、おねだりした、あの美味しい、饅頭を買いたいと そして、それを奥様の誕生日に祝いに、添えたいと だが最近、年の所為か?物忘れが激しい、どこで買ったのか思い出せない すると、この写真の事を思い出し、この子に聞いてみたらわかるかもしれんと、この写真を手に持って、ここを訪れた だが、この年寄りではちと難しいかもしれんと、淋しそうに言うと 華ちゃん、華ちゃんのじゃないの? この写真の娘 姉さんの一人が言うと どれどれ、可愛いねぇ 今も可愛いけど ともう、一人の姉さんが言った 姉さん方、この子を知っているのか? ありがたい、どこ居るのか教えてくれ?とあの人が聞くと 姉さん達は、目を丸くして見つめ合い、吹き出しながら さっきから、目の前に居るじゃない、そう、その娘が華ちゃんだよ と言われて、私は頭を下げると、あの人も、大声で笑ってました これが私とあの人の、愛の始まりでした」
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