思い出交換Ⅱ

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四十五分後 香織と華子を乗せた車は、町から村へ、そして村から山奥へと走って行った 人気の無い、山奥の小屋が見えると、富樫は車を静かに停めた 停めると、すぐに車を降り、両側の後部座席のドアを開けた 「奥様っ‼ ここからは、歩きになります この上が、キヨ先生の山小屋です」 と富樫が階段らしき道を、指差しながら言った 「華子っ‼ 行きますよ」 と言うと、香織と華子はその階段らしき道を登って行った 「あらっ、富樫さんは登らないのですか?」 と華子は、隣にいる香織に聞くと 「産婦人科ですよ 富樫が、来ても役に立ちませんよ」 と香織は華子のその滑稽な質問に笑顔で答えた そして、その階段らしき道を登り切ると、一人の老婆が、畑を耕していた 「おはようございます キヨ先生っ‼ 今日は、宜しくお願いします」 と香織がその老婆に挨拶すると、続けて 「おはようございます 宜しくお願いします」 と華子も挨拶した 「おはよう 良く来たな どれどれ?」 と華子の顔を見ると、大きく頷くと 「華子っ‼小屋に入れ お嬢は、外で待っておれ‼」 と言うと、キヨ先生と呼ばれた、老婆は畑を耕すの止めて、小屋の前の井戸で顔と手を洗い、そして小屋に入って行った 香織は、小屋の前にある切り株に腰を下ろし、静かに華子を待った 数十分後 キヨと華子は、笑顔で小屋から出て来た 「お嬢っ‼ 華子と腹の子は元気だ でも、ちと悪阻が軽そうだな まぁ、まだ五ヶ月 まだ、心配はいらぬようだが 用心はしろよ、お嬢」 とキヨ先生が言うと、香織と華子は小さく頷いた 「それと、お嬢っ‼ 小切手の額面が、大き過ぎる 先が見えてる、このお婆に大金なぞいらん 送り返しておいたぞっ‼ その十分の一で良い 残りの十分の九は、お腹の子に使え お嬢っ‼わかったな」 と暖かい眼差しで、香織を見ながら言った そして、華子を見つめながら 「体だけは、冷やさないように・・・ くれぐれも、気お付けろよ‼ それと、お嬢っ‼ 今度、わしもボクシング・エクササイズとやらに誘え 華子から話を聞くと、わしもやりたくなってのぉ」 と言うと、キヨは大声で笑った 香織と華子も、吹き出し笑った 下にいる富樫も、その笑いに誘われて、笑みを溢していた 「来月、また会おう」 とキヨが言うと、キヨは振り返り、小屋へと消えて行った
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