序章~小さな王の誕生~

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「そんな風に言われたら僕、逃げられないじゃん」 「別に逃げても良いですよ? 貴方が後悔しないなら。自分の生き方は自分で決めてください。貴方の人生ですから」  クレクの笑みはそのまま。けれど、クレクはラジウの性格をよく知っていた。決して彼が逃げ出さないこと。それは彼の父ゆずりだと言うことも。それでも、辛いなら逃げ出して欲しいとクレクは思っていた。その気持ちが言葉になって出て行く。 「クレク。お前判りすぎなんだよ。僕が絶対に逃げないってさ。ただ背中を押して欲しいだけだった。ってさ」  ラジウは頭を掻いてクレクを横目で見る。彼の言葉で自分の気持に気付いたことが恥ずかしかったようだ。しかし、その顔は先程よりも明るく笑みが溢れていた。  それにクレクは少しほっとした。逃げ出すなら、きっと彼が後悔し続けることがよういに想像できたから、逃げないで居てくれて良かったと。 「そんなこと私は知りませんし、しませんよ。甘やかしてもラジウ様のためにはなりませんから。で、決心はおつきで?」 「もっちろん! 絶対に逃げないよ! 逃げたらきっと後悔しちゃう」  クレクが確認がてらに問うと、ラジウは顔を正面に向け、にっこりと笑んだ。そこには子どもの無邪気さが滲出ていた。そんな彼の笑顔にクレクはさっきよりも柔らかい笑みを返す。 「それでこそラジウ様です。貴方らしい。付いてきた私達も安心しますよ」 「は? 私達?」  クレクの言葉に照れていたのもつかの間、妙な単語にラジウは固まった。片頬がぴくぴくと痙攣を起こしている。 「はい。後にいらっしゃる方々ですよ」  ラジウはギギギといった音が出そうなくらいぎこちなく振り返った。そこにはドアから顔を出している数人の少年と少女が居た。彼等の視線は明らかにラジウに注がれている。  ラジウの顔がだんだんと赤く染まって行く。 「あ、あんたら何時からそこに?」  上擦った声で問う。彼等の年頃はラジウより小さくもあり大きくもあった。ようはバラバラの年代が集まっているのだ。しかし、彼等はけして大人ではない。 「最初から」  1番小さな女の子がラジウを凝視したまま呟いた。ラジウはその言葉に耳まで真っ赤にする。最初からということは弱気になった自分を見られたということ。それをラジウは実感しているようだ。
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