495人が本棚に入れています
本棚に追加
「ん~っ!」
しかし、それも束の間。少女が苦しそうにもがきながら状態を前に倒した。
まだ成長途中の少年少女の体は、その衝撃を押さえられる程大きくはない。あっと息を飲むうちに少年と少女は倒れて転がり出した。その方向は壁がない、つまりは広間から丸見えのところである。
ドテッと音がするような止まり方。スピードが落ちた二人は壁もない場所で、うつ伏せで止まったのだ。
「うっ、うっ……あーーんっ! 痛いよーっ!!」
少女が起き上がろうともせずに泣き出した。その泣き声にざわめきがピタリと止まる。そして、視線が彼等に集中した。もちろんラジウ達だけではない、広間にいる者達も唖然として彼等を凝視しているのだ。
少年がその視線に気付き慌てて起き上がる。その顔は耳まで赤く、視線があちらこちらに泳いでいた。また、あはは。と小さく渇いた笑いもする。
「わぁあーっん! わぁむぐっ……」
少女の泣き声がこだまする。それにはっと我に返る少年。彼は急いで少女の口を手で塞いだ。それから死にもの狂いで少女を引きずり、元の場所に駆け戻ったのだった。
まだ辺りは静まりかえっている。少年が息を切らしている音だけが妙に煩く聞こえた。いや、ラジウ達にとってはそれよりも、自分の心臓の鼓動が煩いに違いない。あっという間の出来事にポカンと口を開け冷や汗を流しているのだから。
「わっ!?」
ラジウをいきなり浮遊感が襲った。足がぶらぶらと床より数センチ上を行き来する。ラジウには何が起こったのかわからない。
「ラジウ様を離してください」
常備している弓をいつの間にかクレクは構えていた。矢の先端はラジウの後ろの人物、ゴロツキの喉仏に触れるか触れない程度で向けられている。
ラジウはゴロツキの一人に服を掴まれていたのだ。
「なんだ? お前達は……?」
三流悪役は少し冷や汗を流すものの、動じることなく疑問をクレクにぶつけた。余程こいうことに場慣れしているのだろう。
クレクは弓を構えたまま鋭い視線で、そのラジウを捕まえている敵の後ろを垣間見た。たくさんのゴロツキがこちらに目を向けている。自分でどうこうできる人数ではないと、クレクは感じた。
最初のコメントを投稿しよう!