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「……私たちは、一般市民ですよ。住む場所を追われてここに来ただけです。貴方達こそなんなんですか?」
クレクは、相手を逆撫でしてはいけないと踏み、嘘を折りまぜた返答を返す。
いつ襲い掛かってくるとわからない相手に武器を降ろすことはできない。だが、こちらが敵意を見せれば、相手もこちらを攻撃してくるだろう。仕方なくクレクは弓を降ろした。
相手を知ることで勝機が見えるはずだ。そう判断し、なるべく丁寧な口調で問いかけを付け加える。
「山賊だ。ここは人気がないから使っているだけだ。別に何の意味もないぜ」
口の端をあげ、いやらしい笑みを浮かべる山賊にクレクは眉を潜めた。余裕綽々、そう感じ取れる笑み。
「おい! そんなことに僕の城を使うなよ!!」
今まで必死に服を掴んでいる手から逃れようとしていたラジウが、きっと山賊を睨みつけて大声を出した。それに対して大人達は全員目を見開き固まっってしまう。それから、さもおかしそうに目に涙を溜めてクレク以外の大人は笑い出した。
僕の城だってよ。そんな台詞が笑い声の合間から木霊する。
「ここは僕の城だ! 出てけよ!」
なおも喚くラジウ。クレクは溜め息をついた。まったくもって何をしてくれるのか、自分が準備していた行動がラジウによって崩されたのだ。こんなにも山賊を煽ってしまう彼を、クレクは助けなければならない。だから強く弓を引きなおした。
「はっはっは。そりゃいいぜ。城の主を殺せばこの城はオレ達のもんになるってわけだ」
いやらしく笑みながら賊は言った。その彼の目は実に愉しそうだ。
ラジウの背中に冷たいものが走る。だから思わず動きを止めたのだろう。ラジウは暴れるのを止め、男の目に釘付けになっていた。その目は躊躇なく人を殺せるであろう残忍さをかもしだしている。
クレクが弓をゆっくりと上げ構えた。
ゴッ
クレクの弓は当たらなかった。ただ、強く叩いた音が城内に響く。ラジウが地面に落ち、男も地面に倒れ込む。
弓よりも早く舞ったのは、ラジウよりも少し薄汚れた金髪だった。肩よりも下に伸ばした髪は長さがバラバラで、更に言うなら右側だけ申しわけ程度に結んである。彼は地面に着地すると漆黒の瞳でラジウ達を見た。肩越しのため睨んでいるようにも見える。
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