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「……逃げたな」
「あっはっは。物分かり良くていいじゃん。正義には勝てないってな」
逃げた奴を見送った視線のまま、無愛想な男シルキアは呟いた。それに、軽快な男アレンは笑いながらまたふざけた言葉をつむぐ。それに呆れた目を向け、シルキアはため息を吐いた。
「……まだ言うか。馬鹿」
「はは。団の名前は正義だから」
「何時の間に……」
ケタケタ子供ように笑いながらなおも明るく言うアレンに対して、驚く様子も見せずただただ突っ込みを溜め息混じりに入れるシルキア。いつものことなのか、もうすでに呆れた視線を彼に向けることはない。
しかも、何やらアレンの言葉に納得しているらしく、考え込むようにシルキアは手に顎を乗せた。
なんでこんなにも違う二人が一緒にいるのかと、ラジウは疑問に思ったらしく、眉を額に寄せている。
「ついさっき」
そんなシルキアに、追い討ちのごとくきっぱりとつげるアレン。それに、ついにシルキアはそうか。と呟いた。ラジウは、それでいいのか!?と思わず突っ込みたくなったが、そこはそれ。我慢をするのだった。
あまりに不自然な視線だったのだろう、シルキアがラジウ達の視線に気付き、アレンを肘でこづいた。それから顎でラジウ達を指す。
「あ、悪いね。急に割り込んだりしてさ」
くったくのない笑顔。まるで詫びれた様子ない。
「いえいえ。大変助かりました。ありがとうございます」
クレクもいつもの笑顔のまま対応した。そして軽く頭を下げる。
それにアレンは笑って一言。
「はは。ならお礼にお茶でも付き合ってよ。お嬢さん」
「私は男です」
その言葉に、一瞬にしてクレクの笑顔から殺気が放たれた。アレンの笑みがそれに対して少し引きつる。
「あはははー。ごめん、ごめん。女みたいな顔……」
言葉はヒュンという音に遮られた。アレンの右頬から一筋の赤い血が伝う。クレクが彼に向かって躊躇なく弓を放ったのだ。
そして、クレクは満面の笑みで言った。
「はっ倒しますよ?」
場が静まりかえった。むしろ固まったと言った方が的確であろう。
クレクは女っぽい顔立ちをかなり気にしているようだ。彼にとって女顔、女みたいは禁句になる。とラジウは心に留めるのであった。
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