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「父上! 父うぇえっ!」
ここにも一人、力で押さえられたものが居た。
彼の名はラジウ。金髪の髪は短く切り、気が強そうなきりっとした眉にまだあどけないくりっとした瞳と顔。先刻まで彼は、何不自由なく暮らしていた。胸を張って誇れる父と共に。
ラジウの父は一国の王で、民からの信頼は絶対なものを獲得していた。頭も切れ、何より子供には優しいことから、ラジウにとって自慢の父であったことは誰の目からも明らかだった。しかし、彼の父は国を守るために首から上が無くなって子供の元に帰ってきたのである。
魔物の力に屈してしまったのだ。国の平和と引き替えに。
「ラジウ様! 落ち着いてください!」
布を被せられ、板の上に乗せられた父の体を、歪む視界でラジウは見つめていた。彼の目は大きく見開かれ、唇は青く密かに震えている。
ラジウが父へと手を伸ばそうとした時、彼の視界を塞ごうとするように、彼の前に立つ銀髪の青年が居た。腰まで伸ばした銀髪に弱々しそうな垂れ目。頭には上部と顔の部分だけがない、耳と後頭部を隠す薄黄色い布を巻き付けていた。布の下の切目の部分には白と黄色で模様が描かれている。
青年は必死でラジウの視界を塞ぎ、彼を抱きしめた。
「クレクっ……父上はっ!」
青年の名はクレク。ずっとラジウとラジウの父に従っている者だ。
ラジウは視界を塞いだ彼の服を力一杯に握り締めた。それから、額の高さにある彼の腹に頭をぐっと押し付ける。
なんでっ。と小さく呟き大粒の涙を流すラジウを、クレクはただ抱きとめてその場に立つしか術を知らなかった。
しかし、この場にいるのは彼らだけではない。彼ら以外の人が素早くラジウの父を何処かへ運んでいってしまう。
父の姿を見送ることなく立ち尽くすラジウ達に、陰が三つ四つ近づいてきた。
「ラジウ様。この度は大変残念な結果になってしまい。遺憾であります」
決まりきったその台詞にラジウはピクリと体を反応させるが、クレクの腹に頭部をつけたまま動こうとしないうえに、黙り込んでいる。ただ、手だけはクレクの服をより強く掴んで小さく震えていた。
近寄ってきたのはラジウの父に遣えてた者達である。だから、ラジウにもクレクにも面識はあった。
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