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「しかしながらラジウ様。いつまでも感傷に浸ってはいられません。この国には王が必要なのです。前王がお亡くなりになられた今、貴方しかおられないのですよ!」
先程とは別の人物が真剣にラジウに言った。だが、ラジウが反応を示す前にクレクがその者達を睨みつける。
「こんな幼いラジウ様にそんな重大なことをさせるおつもりですか!? しかも前王が亡くなられた感傷に浸ることさえするなとおっしゃるのですか!?」
声は静かだった。静かだが、低く怒気をはらみ、責めているような口調である。
明らかにクレクは彼らに対して怒りを露にしていた。ただ、ラジウを抱きとめる手にはいつもの優しさが残ってはいるが。
「クレク、私達がいってるのは形上。上辺だけの話です」
クレクと同じように静かな声。しかしその声は無機質で感情を読み取ることができないものだった。
クレクが反論しようと口を開きかけた時、ラジウが彼から離れた。それを驚いた目でクレクは追う。
「いいよ。やってあげる。何をすればいい?」
ラジウは顔を下に落としたまま体を回転させ、彼らに向かって言った。普段と変わらぬ声色にクレクは少しほっとしたものの、何をしだすのかとドキドキハラハラでラジウを見守っている。
「流石ラジウ様です。物分かりがよろしいようで。まず初めに明日の朝、民の前で演説をしていただきたいのです。文はこちらで用意いたしますので」
「うん。わかったよ。後で部屋持ってきて。明日の朝まで自分の部屋にいるくらいいいかな?」
静かな声と、ラジウの会話。一方は相手を見下ろすように凝視し、一方は顔を落としたままの姿勢で問いかける。
「もちろんですよ。承ってくださり誠にありがとうございます。ラジウ様」
ラジウの返答に安堵したのだろう、笑みを零してからラジウの前に四人は膝まずいた。ラジウはうん。と小さく返事をすると踵を返す。彼の赤いマントがたなびく。
「クレク。行こう」
「はい。ラジウ様」
歩き出したラジウの後をクレクは追った。膝まづいている彼らを見ないようにして。部屋につくまで決して、ラジウもクレクも口を開こうとはしなかった。
部屋について、ラジウは何を思ったのか部屋の中をあさり始める。
「ラジウ様……?」
クレクが眉を潜めてラジウの行動を目で追った。彼は大きな鞄に服などの身近なものを次々に詰め込んでいく。
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