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次の日。ラジウは城の一部で、街に面している場所に立っていた。そこからは、集まっている大勢の人々を見渡せる。もちろん天井がないそこは、空や街さえもよく見える。
昨夜受け取った紙の束を片手に、ラジウは皆に見えるように塀を登った。あまりにぶ厚い紙の束。それにはぎっしりと言葉が詰まっていた。そのため、初めて見た時、ラジウは眉を潜めて溜め息をついたものだ。
「ラジウ様のお言葉です」
静かな声がラジウを促すかのように民に告げた。ラジウの周りには椅子に腰をかけた大人が数人。どれもこ難しそうな顔をしている。
ラジウは小さな頃、その顔達に何度も笑いを刻んでやろうと試みたことがある。ようは悪戯なわけだが。しかし皺の入った顔はよけいに難しい顔になるだけだった。そして、額に皺をよせている顔の中にクレクの姿は見当たらない。
「この度は前王が亡くなり大変遺憾である。しかしながら、我が国には王が必要であり、彼の血をひくこの私が王になると誓おう」
ラジウは紙の束に書かれている文章を読み上げた。それに応えるかのように観衆が喜びの声をあげる。
ラジウはそれを見て、次の言葉をつむぐ前に笑んだ。笑顔は優しい、父と同じような笑みだった。しかし、笑顔とは裏腹に彼の手は、紙の束をビリビリと破り捨てていた。いきなりの出来事に民衆は静まりかえる。
そして、ラジウが口を開いた。
「なーんて、これにはそう書いてあったけど。僕、この国の王になる気がサラサラないんだ」
ラジウの口調はウキウキと弾むような。また、自信に満ちているような。そんな感じだった。顔は笑みがこぼれている。
紙が散々になって舞った。紙吹雪がひらりひらりと舞っているのだ。それはまるでラジウを祝っているかのよう。
「この国は僕が築いたわけじゃない。父上が築きあげたんだ。僕、父上のお下がりなんてごめんだね。だから僕は一から始めるよ。今はもう使われてない古城、丘の跡城で」
「ら、ラジウ様。お考え直しを」
こ難しい顔の一人が立ち上がってラジウを見る。その顔には驚きと焦りの色がありありと浮かんでいた。
ラジウはそんな彼等に向き直った。目は鋭く、怒りを露わにし、しかしその反面静かに彼は言った。
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