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「嫌だよ。僕知ってるんだ。父上を犠牲にすること、あんたらが決めたんだって。僕は父上のにの舞い踏むなんて嫌だから」
そこでラジウは目を閉じ大きく息を吸った。それから背筋を伸ばし顔を上げ胸を張る。目をゆっくりと開け自分の城であったそれを見据えた。その動作を恐々と見守るこ難しい顔達。
「僕は……死んで守るじゃない。死んで英雄になるんじゃない。生きて……生きて守り続けるっ。生きて英雄になるんだ! 自分の力で!!」
ラジウのその言葉は、そこにいる者達に向けたものではなかった。もう会えはしない……この国の王だった者に別れを告げたかったのだ。
「ラジウ様!」
ラジウを呼ぶ声が下から飛んでくる。彼はその声に応えるかのように素早く振り返り城の塀に足をかけ、蹴った。彼の体が宙に飛ぶ。彼は顔をもう一度城を見て言った。
「王になりたいやつがなればいい。満足だろ?」
それは下にいる者達には決して聞こえない程度の声だった。が、しかし。こ難しい顔達にははっきりと聞こえた。
ラジウはだんだんと下に落下していく。それは彼の重みで速度を増していた。
ドサっと大きな音が響き渡る。すると、辺りはシーンと静まり返った。鳥のチュンチュンといった鳴き声や、遠くにある川のせせらぎが聞こえるくらいに。
「あたた」
ラジウが身を起こす。彼の下には見慣れた銀髪のクレクが苦笑を浮かべていた。彼がクレクを受け止めたらしい。しかし、流石に高さがあったのだろう、落下の強さに押され、ラジウともども倒れたようだ。
「大丈夫ですか? ラジウ様」
クレクも身を起こしながらラジウに問う。彼等の隣には馬が立っていた。毛並みが鮮やかで、白い毛が風でなびく。どうやらクレクは、受け止める直前までは馬にのっていたようだ。ラジウを受けとめるために馬から落ちたらしい。
「うん。全然平気。クレクこそ平気か?」
立ち上がって馬に乗ろうとしているクレクをラジウは心配そうに見上げる。作戦ではしっかり馬の上に着地するはずだったが、どうも着地点をミスったことが気になっているようだ。
「私はそんなにヤワではありませんよ。さ、乗ってください」
クレクは優しい笑みを浮かべ馬の上から手を差しのべた。
ラジウは片方の口だけ上げて苦笑いをしながらその手を取り、引っ張られるようにしてクレクの前に腰を降す。
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