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「行きますよ」
今だに静まりかえって、ただ呆然とラジウ達を見ている回りの民たちの間を、クレクは上手な綱さばきで馬を走らせていく。人垣をやっと抜けると、ラジウがクレクの脇腹から顔を出し城と大勢の人を見て叫んだ。
「僕は父上をいつか抜かすよ! もし僕についてきてくれるなら丘の跡城に来て!!」
それはまだ幼い子供特有の高い声で。必死になっていることが伝わってくるくらいはっきりとしていた。けれど、自信がなさそうに弱々しくもあった。
馬がだんだんと人混みから離れていく。静まりかえっていたはずのその場所から、今はザワザワとした人混み特有の音が出てきていた。
クレクはいったん馬を止め、街をラジウと共に見た。日は暮れ始めていて辺りを赤く染めている。街はポツポツと灯りがともされ、輝いていた。
ラジウがクレクの袖を引っ張り、そして顔で丘にある跡城を指す。ようするに街を見てないで行こう。と言っているのだ。それは同時に彼にとってこの街は何の意味も持たないのだとクレクに教えてくれた。
クレクは小さく頷くと手綱を動かしその城に向かったのだった。
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