495人が本棚に入れています
本棚に追加
城につく頃には、既に辺りは暗く、どっぷりと日が沈んでいた。闇夜を星明りが照らす。
「懐かしいね」
暗い中に、どっしりとそびえ立つ丘の跡城をラジウは見上げて呟いた。
近くに来ると城はかなりの大きさがあった。あの街にあった城よりもでかい。けれど、ところどころ錆ているところや崩れているところがあり、見た目は何か出そうなくらいだ。何年も使われていないのだろうツタも巻き付いている。
「はい。昔を思い出しますね」
クレクは馬から降りると、ラジウに手をかし彼も降ろした。それから、中に入りましょう。と促し、ラジウが頷いたのを確認すると城へ足を踏みいれた。
城の中はガランとしており広さだけが身にしみる。
「ここ。あんなに賑わってたのに……今は何もないんだね」
ラジウは残念そうに肩を落とした。
この城は彼が生まれ、また今は亡き父と過ごした場所だった。
昔、城に入ったすぐの広間にはいろんな店が出ており、人で賑わっていたものだ。が、今では何もないガランとした空間とかしている。
「ね、クレク。僕……あんなこと言ったけどさ……」
ラジウは顔を落として弱々しい小さな声を発した。しかし、このガランとした空間にはその小さな声でさえよく響く。
彼はそれを肌で感じながら唾を飲み、喉をゴクリと鳴らしてから言葉をつむいだ。
「本当は……自信がないんだ」
ラジウの言葉にクレクは彼の肩をポンと叩いた。いつもの優しい笑みのままで。
ラジウはクレクを見上げた。その顔は不安と驚きが入り混じってなんとも奇妙な表情になっている。
「自信がないなら辞めてもいいですよ。誰だって何か新しいことをする時は不安です。その不安に討ち勝っても、その後良いことがあるとは限りませんから。逃げるのも一つの手です。でも……今の貴方の望みは、逃げ出してしまうと絶対に叶えることはできませんが」
相変わらず優しい笑みのままさらりと言ってみせるクレクに、ラジウは苦笑った。
最初のコメントを投稿しよう!