プロローグ -77年、悪夢の瞬間-

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1977年、日本グランプリ。 6周目。フェラーリに乗るルーキー、ジル・ヴィルヌーヴと、ティレルに乗る若手、ロニー・ピーターソンが1コーナーに差し掛かったときだった… 次の瞬間、当時F1を放送していたTBSのアナウンサーはこう言った。 「あ、あ、あっ。1台、何か……。ああ、どうしたんでしょうか。あっ、11番ヴィルヌーヴですね。これはすごい事故ですね。人が倒れてます。人が倒れてます。11番フェラーリのヴィルヌーヴ、粉々になりました!」 ここで消えたのだ。TBSの名アナウンサー、石井智が放送席でこう言ったとき、1976年に日本にやってきたF1は、わずか1年であっけなく消えてしまったのだ。                そう、確かにヴィルヌーヴは死んだ。ただ、この事故で死んだわけじゃない。この時はケガもなくピンピンしていて、むしろ不死身のレーサーを強く印象づけた。ヴィルヌーヴが死んでしまったのは5年後の1982年、ベルギーグランプリの予選中の事故だった。                正確に言うと、この時粉々になったのはヴィルヌーヴではなくて、マシンのフェラーリの方だったというわけだ。 冷静沈着な実況で定評のある石井を混乱させたのは、放送席のモニターの1台に飛び込んできた事故の映像だ。(放送席から肉眼で事故現場の状況を確認することはできなかった。)
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