3人が本棚に入れています
本棚に追加
少女の気配に気付かなかった少年は何か気恥ずかしくなって顔を背けた。
「秘密の練習?路地裏のスタープレイヤーにもこんな一面があったのね。」
素直な感心と少し冷やかすようなニュアンスの混ざった声が近付いてくる。
ちらと見ると手を後ろに組み、足はイギリス軍人のように膝を伸ばしたままリズミカルに行進してくるではないか。
わざとらしい。
あの満面の笑みはなんだ。
…カワイイけど。
「あれ~?どうしたの~?顔が赤いみたいだけど。夕陽のせいかな?」
「そ、そうだ!」
「あはは、カッワイイ~」
不意に鼻の頭を指で弾かれ、思わず後ずさってしまった。
「う、うるさい!」
「ふふ、そろそろ夕食の時間よ。早く戻ってあんたも手伝いなさ~い」
人差し指を上げウィンクをしてみせると少女はそのまま踵を返して
「あ、そうそう。カワイイだけじゃなくて、ちゃんとカッコ良かったぞ!少年」
と言い残して駆けて行った。
「…なっ!」
見え透いたからかいに不覚にもドキリとしてしまい、少年は言葉が出なかった。
「…別にカッコつけてるわけじゃ、ねぇよ…」
すでにそこにはない少女の背中に向けて、少年は小さく呟いた。
それは言い訳でもごまかしでもなく、ちゃんと意味のある言葉だった。
しかし大声で叫ぶにはまだ早い。
けれどいつかは言いたい、最後まで叫びたい心からの想いだった。
最初のコメントを投稿しよう!