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中年の男はほとんど最後に船を降りて、自分をじっと見つめるメガネ姿の青年に歩み寄った。
「君が……二見くんかね」
「横井川警部補……」
横井川は“よく頑張った”と言わんばかりに、しわのよった手で竜彦の両手をしっかりと掴んだ。
竜彦は思わず涙が出そうになった。
理由はわからないが、とにかく泣きたくなったのだ。
「今まで……ご苦労だった」
しゃがれた声で横井川は言った。
「事件が終わって一段落したいところだろうが、捜査員たちに事件の事情をなんとか説明してやってくれないか」
彼は顎で竜彦の肩越しに上陸した捜査員たちをしゃくった。
その一部は鈴道らペンションの生き残りの人達を手厚く介抱し、その他の者たちは現場検証の準備を黙々と進めている。
警官で唯一事件の内容を把握しているという理由から、その捜査に協力しなければならないのはやむを得ないが……。
「わかってます。もちろん捜査には協力しますけど……」
竜彦は少し声量を落として横井川に尋ねた。
「頼んでおいた“あの事”……調べておいてくれましたか?」
「あぁ、あれか。出発する直前に本庁から連絡があって、結果がわかったんだが……どういうことなんだ? 全て君の言った通りだったが……ワシには何が何だかさっぱり…」
やはり……思った通りだ。
竜彦は横井川に頼み込んだ。
「横井川さん……捜査始めんの、もう少し遅らせてくれないかな」
「……? 何を始める気だ?」
「……最後の大仕事です」
いよいよこの事件にも決着をつける時が来たのだ。
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