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「今回の事件の舞台となったこの由羅島……通称『阿片島』にはある伝説がある……。皆さんもご存じの通り、『二面相の男』です」
もし覇斎があのような遺書を残して死ぬ前だったなら、『二面相の男』という言葉を耳にしただけでおそらく誰もが震え上がっただろう。
しかし、今この時、その存在を真っ向から肯定するような人間はひとりとしていなかった。
恐ろしい悪夢から覚めたように、皆が皆こう感じていた。
“これは亡霊ではなく、人間の仕業だ”と。
「覇斎さんはそれを知っていた。いや、このペンションにいる者は皆知っていた……。犯人はそれを巧みに利用したんです」
「じゃあ、その猟銃はその犯人がわざと置いてったってことなの?」
珍しくまともなことを言った蓮に竜彦は多少感心した。
少しは成長したかな……。
「あぁ。突然現れた猟銃を目の前に覇斎さんはおそらくこう思ったでしょう……。“これはチャンスだ、あいつを殺してあたかも『二面相の男』の仕業に見せかけられる”ってね」
誰もが竜彦の推理に固唾を飲んだ。
「そして、それを実行に移した。猟銃を発見したのがおそらく夕食前だったんでしょう、覇斎さんはそこからある計画を思い付いたんです」
「計画……?」
「その内容はこうです……。夕食の時間を過ぎても自分がダイニングルームに現れなければ、必ず誰かが自分の部屋に様子を見にやってくる…。そして、その“誰か”というのが、“ある人物”である可能性が極めて高い……」
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