真相〈1〉

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いよいよ核心に迫ってきたな……。 竜彦は自分の意思に反してはやる気持ちをなんとか抑えながら、ちょうど果物の薄皮を剥いでいくように、慎重に真相へと近付いていた。 「そしてその“ある人物”こそが、覇斎が殺意を抱いていた人物、そして……犯人自身だった」 「えっ!? じゃ、どういうこと!? 犯人は覇斎さんに自分に対して殺意を抱くよう仕向けたの!?」 竜彦は深くうなずくことで答えとした。 「気味が悪いくらいに犯人の思い通りにことは進んでいった……。7時過ぎになり、覇斎さんは猟銃を片手にあの丘へ登っていきます」 そう言うと、竜彦は暖炉の右上の辺りを指差し、その向こう側にあるはずの覇斎の殺害現場の場所を他の者たちに今一度思い起こさせた。 「……その中に犯人があらかじめ仕込んでおいた鉛に気付くことなく。数分経って、自分の不在に気付いた“その人物”が自分の部屋にやってくるのを丘の上から密かに見ていた覇斎さんは、静かに猟銃を構え、そして……」 竜彦は猟銃を構えるジェスチャーを演じ、大袈裟に引き金を引いてみせた。 あの無惨な光景が脳裏に蘇ったのだろうか、竜江や峰は怖じ気付いたように、しかしそれでもじっと竜彦のその動作を見ている。 「犯人を殺すつもりが、逆に犯人に殺されてしまった……それも自分の手で……。覇斎さんは見事に犯人の手の平で踊ってたってわけです」 「しかし……」 楠伊が反論にでる。 「彼は銃なんか扱ったことのない人間のはずじゃないか? そんな人間がスナイパーみたいに猟銃を使いこなすというのはどうも……」 「納得がいかない?」 竜彦は楠伊のセリフの残りの部分を続け、ニッコリと笑ってみせた。
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