真相〈1〉

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〔4〕 雨はあがり、時折窓を揺らしていた風もその瞬間はピタリと止んでいた。 暖炉の炎がはぜる音もせず、あまりの静寂さに自分の心臓が肋骨にぶつかる音さえはっきりと聞こえそうなくらいだった。 竜彦のその一声は談話室を貫き、その場にいた全員の耳の奥深くにしっかりと行き届いた。 そして、ただひとりを除いて、全員がある人物に対して懐疑の視線を向ける。 その人物はうつむいていた顔をゆっくりと上げ、自分に向けられる数々の視線に臆することなく、ただ竜彦の目の奥をじっと見つめた。 「……私が…犯人……か」 鈴道 和斗はまるでこの状況を楽しんでいるかのように、せせら笑いながらつぶやいた。 他の者が信じられないというふうに彼を見つめる中、竜彦だけは真剣な、闘いを挑む戦士のような目をしていた。 竜彦はもう一度復唱した。 「そうです、あなたが今回の事件の真犯人なんです」 「フッ……二見さんはユーモアのある人ですね。感心しますよ」 皮肉たっぷりにそうもらす鈴道。 彼の目には余裕すら見えた。 「冗談なんかじゃありませんよ、鈴道さん。俺は本気です」 その言葉に鈴道は少しばかり目の色を変えた。 「そうですか……。困ったなぁ……いきなり犯人だなんて言われちゃ」
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