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「まず、覇斎さんの遺書に書かれていた麻倉さん殺害のトリックだが、あれにはかなり大きなリスクが伴う」
“共犯者である蔦嶋 史登が灯台の裏の隠し扉から中へ密かに侵入し、ちょうど出口付近にいた俺を背後から襲い、何事もなかったように再び隠し扉から外に出る”
というのが、遺書に書かれてあったトリックの内容である。
だが、これも所詮は犯人である鈴道が頭の中で編み上げたもの。
『机上の空論』と言っても過言ではないだろう。
「灯台には確かに隠し扉と隠し通路が存在しますが、史登さんがそれを使うのを誰かに見られたり、あるいはその存在自体がバレる可能性だって十分にある……。それに、何よりの証拠が『蜘蛛の巣』です」
「『蜘蛛の巣』……? それが一体どうしたというんだ?」
楠伊が顔を険しくして尋ねる。
「実際に隠し通路に行ってみたんですね。そしたら、歩いてみると顔中に蜘蛛の巣が引っ掛かったんですよ……」
他の者はまだ竜彦の言わんとする事が理解できず、小首をかしげている。
「蜘蛛っていうのは、聞くところによると、一度巣が壊されると最低でも2・3日経ってからじゃないと同じところに巣は作らないらしいんです。つまり……」
すると、ようやく理解できた楠伊は感心したようにその先を続けた。
「“最低でも2・3日前までは誰もそこを通ってない”ということか……」
「その通り、俺がそこに行ったのはついさっきだから、少なくとも昨日は誰も隠し通路を使わなかった、ということになる」
部屋の片隅で、横井川は何とか事情を飲み込もうと竜彦の話を必死に聞いているように見えた。
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