真相〈1〉

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「ハッ」 鈴道は取るに足らない問題だというかのように鼻であしらった。 「だから私に言われても困るんですよ……。何度も言うようですが、私は犯人なんかじゃな…」 その刹那、彼の表情は固まり、目が泳ぎ出した。 微妙に唇を震わせているのは、自分の犯した失敗に対する後悔の念だと竜彦は受け取った。 「やっと気付きましたか? 自分の犯したミスに……」 「ねぇ、その“ミス”ってのは一体何なの!? もったいぶらずに話してよ!!」 なかなかその内容を話そうとしない竜彦の態度に苛立ったのか、蓮が早口でせき立てる。 「灯台で俺を見つけた時、あんた………全然濡れてなかったよな?」 「……!!」 鈴道は瞬間的に唇を噛んだ。 「蓮の話によると、あの時は誰も傘はおろかレインコートすら着ていなかったらしい……。つまり、あの土砂降りの雨の中をずぶ濡れになりながら歩いていたわけだ」 普段無口な岸國も、この時はあんぐりと口を開けながら竜彦の言う事に聞き入っていた。 「ところが、俺の記憶の中では、あんたは全然びしょ濡れなんかじゃなかった。次の瞬間ピンときましたよ……もしかすると、あんたが俺の目の前に姿を現したのは、雨が降り始める前なんじゃないか、ってね」 ほとんど完全に密閉された灯台の中にいた竜彦には、外で雨が降っているかどうかなど知るよしもなかった。 目の前に現れた鈴道の体が乾いていたことを当初は気にもかけなかったが、しかし後に他の者から証言を訊くにつれて、徐々にその差異が浮き彫りになったのだ。
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