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〔5〕
「問題は、今朝の蔦嶋さん兄弟が殺害された事件……。これだけは最後の最後までわからなかった」
苦々しい声で竜彦は言った。
「この島にいる全員に鉄壁のアリバイが存在する……まさに“不可能犯罪”さ」
竜彦は“不可能犯罪”というこの言葉を特に嫌っていた。
“犯罪”とは通常人が犯す罪のこと。
犯罪が起こったからには、それをすることが出来た、実際に実行した人間が必ず存在する。
一方で“不可能”とは、人が出来ないこと。
これら相反する意味の言葉を繋げた“不可能犯罪”という言葉は、犯罪を取り締まる職業の竜彦にとって言わば“タブー”なのだ。
しかしそれを今使ったのは、あくまでこの目の前の男を打ち負かすために誇張して使ったのであって、やむを得なかったのである。
「その“不可能犯罪”が私には出来たと、そう言うんですか?」
鈴道のその口調の辛辣さが、しばし自分の世界に引きこもっていた竜彦の心に突き通った。
「そう……。“不可能”を“可能”に変えるほど、あんたは頭がキレる人間ってわけです」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
鈴道は皮肉混じりに言った。
「この事件で、あんたは俺の裏の裏をかいた」
「裏の裏?」
蓮は小首をかしげた。
「今朝事件が起こった時、ペンションに残っていたのは被害者の史登さんを除いて楠伊さん、そしてあんたの2人だけだった。俺は初め、史登さんを灯台に拉致して殺害した犯人はそのうちのどちらかと思ってたけど……」
竜彦はまるで昔の失敗談を友人と語り合うかのように鼻で笑った。
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