真相〈1〉

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そう言うと竜彦はおもむろにポケットから折り畳んだ一枚の紙を取り出し、暖炉の紅い炎を映すガラステーブルの上にそれを広げた。 そこには由羅島のおおまかな外形と、主要箇所の簡単な位置関係が記されており、それぞれを結ぶ道のそばには、その移動の際の所要時間が明記されている。 周りの者は一様にして近付き、それを覗き込んだ。 「今日の夕方、蓮と一緒にペンションと鐘楼、そして灯台の各間を徒歩何分で行けるかを測って、記したものです。これによると、ペンションと鐘楼は20分……ペンションと灯台は、通常の道のりで行くと22分、吊り橋を使うと15分です」 竜彦の言葉を注意深く聞き取り、小さくうなずきながら頭の中で計算するような素振りを見せた後、しばらくして閃いたように蓮が言った。 「なるほど……確かに不可能ね」 「そう。俺達がペンションを飛び出して、走って鐘楼に向かい、そこで多量の血痕を発見してから再びペンションに走って戻るまで……どんなに見積もっても、最低40分はかかってしまう」 竜彦は親指のみを曲げた右手を目の前に掲げた。 「一方、ペンションから大人1人を背中に抱えて灯台に向かい、通常の道を通って到着、そこで背中の人間を下ろしてから走ってペンションに戻ると……こちらは大体45分といったところだ」 竜彦は掲げていた右手の横に、5本の指全てを広げた左手を掲げた。 「つまり、あの時ペンションにいた人間には史登さんを抱えて灯台に行き、俺達が戻ってくるまでに再び帰ってくることは不可能……完璧なアリバイがある」
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