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数あるフレーズの中で、その『月が重要な鍵』という言葉が一際目立つように、赤いボールペンで周りを何重にも囲まれていた。
竜彦はそれを岸國の目の前に差し出し、尋ねてみた。
「岸國さんはこれに見覚えは……?」
岸國は顔を近付けてさっと目を通すと、竜彦の目を見て軽く首を横に振った。
「そうですか……」
一体どういうことだろうか?
岸國さんが知らないとなると、なぜあの時兼谷はあんなことを言ったんだ?
行き詰まった竜彦が神経質そうに頭を掻いていると、岸國が突然低い声で語りだした。
「僕……何となくなんですけど……」
「?」
「あの人とずっと前に会ったことがあるような気がするんです」
「“あの人”って、兼谷さんのこと……?」
と蓮。
岸國はコクリとうなずいた。
「僕の父親は銀行の専務で、兼谷さんのお父さんと仲がよかったんです。同じ考古学の研究を一緒にしてたとかで……」
その言葉に、竜彦はふと楠伊の証言を思い出した。
当時兼谷 尚次を中心とする考古学の研究会、言わばトレジャーハンターの仲間に、楠伊の他に確か岸國の父親もいたはずだ。
楠伊が持ち歩いていた写真に彼らが一緒に写っていたのを覚えている。
当時は岸國の父親が由羅島の所有者だったはずだから、きっとその理由もあいまって兼谷は彼に近付いたのかもしれない。
「父は僕を連れて兼谷さんのお父さんと一緒によく由羅島へ連れてってくれたんです……。
ある日、幼かった僕は何にも知らないで崖に近寄って、落ちそうになった時、誰かが腕を引っ張って助けてくれたんです。顔は覚えてないけど、当時の僕より少し年上くらいの少年でした。
今思えば、それが多分兼谷さんなんじゃないかと……」
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