夏木立

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      あの日、どうしても兄貴に会いたくて居場所も聞かず飛び出した。           見知らぬ土地。     俺の知ってる人はいない。     俺を知ってる人もいない。           絶対に会えると信じて出てきたのに、三日目には心がかなり折れてた。               もう自分がどこにいるのかすら分からなくなって。     一人途方に暮れてたら不意に名前を呼ばれた。                       ちっちゃい頃みんなでかくれんぼしていた時、鬼になった友達は毎回俺を見付ける事が出来なかった。       俺は隠れる事に関して天下一品だったみたい。       そんな時は決まって兄貴が呼ばれた。           兄貴が来てしまうと、いくら息を潜めていようが、俺は瞬く間に見つかってしまう。                           優しく呼び掛ける声を聞いた時、ふとそんな事を思い出した。           『あー…やっぱり兄貴が見付けてくれたんだ』         ただそれだけが嬉しくて。       そしてその瞬間思い知らされた。             兄貴が好きなんだって。    
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