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朝が来る。
白い幾つものレースから構成された薄手のカーテン越しに、盛り上がったベッドのシーツを、私の頬を、柔らかく照らす光。
包むような眩さに震える睫毛を押し上げれば、何時ものようにベッドを降り、何時ものようにデスクへ向かう。
そこにはやはり何時ものように、見慣れた白い封筒があった。
逸る胸を片方の手のひらで押さえ付けて、それを手に取る。
この瞬間が、この瞬間こそが私の全てだと言っても過言では無い。
嗚呼、この清潔な白い袋の口を開けば、その中にあるやはり白い便箋に綴られている巧みな文章に、何時だって心踊らされるのだ。
流れるような曲線が並ぶ。滑るようなペン先が浮かぶ。
親愛なる貴女へ、相も変わらず私は貴女を想っています。朝露に濡れた花びらのようにその頬を濡らす悲しみがあったなら、この指先で今すぐ雫を掬い取ることでしょう。私がそこへ行くことが出来るなら、貴女の傍らに居られたのなら。
私の指先も瞳も唇も、この頭から爪の先まで私を構成するもの全ては、何もかも貴女の為に在るものだというのに、
私は貴女に触れることが出来ない。蝕むばかりで、きっと語る事さえ許されない。私の想いが強ければ強い程、貴女は遠ざかって何時か消えてしまう。そうなる前に、私が消えます。
──激しい動揺に心が揺れた。
やはり流れるような曲線、その先に、受け入れたくない事実が紙面へ刻み込まれている。
「…どうして、」
緊張に渇いた唇が紡ぐのはどうしても酷く掠れてしまった小さな声で。
力の込められなくなった指先で取り落としてしまった白い便箋は、かさりと乾いた音を立てて冷たい机上へと影を落とした。
もう、手紙は出せません。
この最後の一文が、私の脳裏に焼付いて離れない。
どうしてどうしてどうして、強い疑問が次から次へと頭の中に浮かんで、それから途方も無い悲しみが潤いとなって私の眼から溢れ出た。
愛を語るその指先で、この悲しみを掬い取ってはくれないのですか。
私を想うというその胸に、そっと抱いてはくれないのですか。
唇をかみ締めながら、机上の便箋を拾いデスクの引出しを開ける。
その中に見慣れた白を見つけた瞬間、思わずまた手紙を取り落としてしまった。
涙に歪んだ視界に映える、ただただ白いレターセット。
それはあの人が私への愛を綴っていた筈の。
「──私が消えれば良かったのに!」
(はじめからこの感情は罪深かった。)
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