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夜半。
微風。
静寂。
一人の男と少女が、少しの距離を置いて視線を交わしている。男は無感情に、少女は瞳に怯えを滲ませて。
「………っ!!」
やがて路上に落ちた影が動きだす。
男が手に握ったギターを少女に振りかざすのと同時に、少女の喉を声に成らぬ悲鳴が通り抜けた。その弱弱しい風にも似た音と、風を切る音とが一つに重なる。
鉄鎚は、振り下ろされた。
『ゴォオオオオォン!!!』
虚しい夜の街に、轟音が響き渡る。
そしてすぐその後を追いかけるように、か弱い幼子が冷たいアスファルトの路面に崩れ落ちた。
余韻嫋々。
再び訪れた静寂に、男と少女が包まれていく。いや、男と、少女であったその死体だ。
彼女の頭から溢れる赤い海が、月光に照らし出される。
光を跳ね返して銀に光る髪の毛と、無情の眼差し。そしてその骨ばった手に握られたギターが、夜闇に溶け込む黒い胴体から血を流す。
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