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「遼くん…。」
薫は僕の手を、ぎゆっと握った。
風が強くて、君の栗色の髪が可哀想なくらい煽られる。
「うん。」
手摺から身を乗り出して深淵な河口を眺めていると、存在の儚さを感じて吸い込まれそうだ。
今日、僕らの命は終わる。
この風景を、この瞬間を、この夕焼けを忘れない様に魂に刻もう。
「ごめん…。」
どうして謝るの?
僕は至福に包まれているのだから。
ざぶん…。
強い衝撃が襲い、視界を遮る粒子の様な泡の渦に飲み込まれる。
凶器となった水が呼吸を妨げる。
業火の痛みを乗り越えたなら、僕らは永遠にカルマの鎖で繋がれる。
薄れゆく意識の中で、掌から伝わる君の体温を感じていた。
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