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第一章 「幼なじみ」
「あっ…。」
瞬間に痛みが五感を突き刺す。
工作の時間。不慣れなカッターの刃先が指先をかすめた。
えんじ色の雫がみるみる大きくなって、床へと滴り落ちる。
僕は慌てて傷口をくわえた。口の中に生温い感触と、血の味が広がる。
ズキズキズキ…。
痛い痛い痛い…。
涙がポタリ。ポタリ…。
「遼くん?」
大きく見開かれた瞳が、僕の紅潮した顔を覗き込んだ。
「何でもない…。」
「何でもなくない!」
薫が眉をしかめて、唇を尖らせた。
強引に手をとって、怪我の具合を観察し始める。
同級生の女の子より、非力な僕。
不器用でカッコ悪い姿を見られたくなかったのに。
診察が終わると、ポケットから取り出した絆創膏を丁寧に、丁寧に巻き始めた。
「もう、大丈夫!」
前歯が一本欠けた無邪気な笑顔が眩しくて、僕はうつ向いてしまった。
それは小学三年生の秋。
薫は昔から日焼けした活発な女の子で、僕は彼女の背中に隠れるひ弱な男の子だった。
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