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その日の中庭は不穏な空気に包まれていた。
花壇のまわりに生徒が群がって、何やら大騒ぎしてる。
人垣をかきわけると、薫と五年生の翔太が対峙しているのが見えた。
お互いに眉を吊り上げて、一触即発!の面構えだ。
足元を見ると、花壇の土にサッカーボールがめり込んでいた。たくさんの足跡で踏み荒らされている。
「あっ!」
温厚な薫が、あんなにも怒る理由を瞬時に理解した。
昨日の夕方。僕と薫がチューリップの球根を植えた場所。
植物が大好きな薫はひとつ、ひとつ丁寧に土をかけていた。
「綺麗に咲くといいね。」
春先に鮮やかな花で埋め尽くされる花壇を想像して、本当に楽しそうだった。
翔太は六年生も恐れるほどの巨漢で、我が西小学校のボスだ。
躰の小さな三年生が敵う相手ではないのに、勇敢に体当たりを試みた。
案の定、片手で簡単に突き飛ばされて、真っ白なスカートが泥だらけになってしまった。
気丈な薫は涙ひとつ見せない。
生意気な下級生の謀叛に怒りで我を忘れた大将は、岩みたいな拳を薫の頭上にふり降ろした。
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