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大学病院に行く日…
妻は少し緊張ぎみに見えた。
俺も、これから医者へ行き、自分の娘を諦めると言わなければならない事に対して、何とも言えない気持ちでいた。
『大丈夫か?』
『うん。』
山田の一件以来、妻に対しての気遣いは初めての事だが、事情が事情だからか、自然と言葉をかけた。
大学病院の待合室。かなりの時間、待たされた感じがした。
順番が来て、病室に入る。
女の先生と看護士さんがいた。
『江川(仮名)です。』
『宜しくお願いします。』
軽い挨拶の後、話は本題に入った。
『おそらく、お子さんは危険な状態です。必要な栄養が胎内で補えないって事は、予定よりも早い段階で胎内から出して、栄養を補給して行く事になると思います。』
『あの、その子供の事なんですが…』
俺は、可能であるならば、今回の出産は諦めたい旨を、江川先生に伝えた。
『旦那さん、今、赤ちゃんの大きさは1500あります。無事に出産出来る大きさとしてはギリギリです。なるべくなら、胎内で成長させてあげたいので、もう少し様子を見たいと言うのが、今の現状です。それでも諦めると?』
『はい。』
『旦那さん、1500あるんですヨ?』
『ええ。解ってます。』
風が吹いたら飛ばされそうな、俺の意志。
諦めるって決めたのに…
胸が痛む…
江川先生は、話の矛先を妻に向けた。
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