別れぬ理由③~この子を産んだら…

4/6
前へ
/133ページ
次へ
大学病院に行く日… 妻は少し緊張ぎみに見えた。 俺も、これから医者へ行き、自分の娘を諦めると言わなければならない事に対して、何とも言えない気持ちでいた。 『大丈夫か?』 『うん。』 山田の一件以来、妻に対しての気遣いは初めての事だが、事情が事情だからか、自然と言葉をかけた。 大学病院の待合室。かなりの時間、待たされた感じがした。 順番が来て、病室に入る。 女の先生と看護士さんがいた。 『江川(仮名)です。』 『宜しくお願いします。』 軽い挨拶の後、話は本題に入った。 『おそらく、お子さんは危険な状態です。必要な栄養が胎内で補えないって事は、予定よりも早い段階で胎内から出して、栄養を補給して行く事になると思います。』 『あの、その子供の事なんですが…』 俺は、可能であるならば、今回の出産は諦めたい旨を、江川先生に伝えた。 『旦那さん、今、赤ちゃんの大きさは1500あります。無事に出産出来る大きさとしてはギリギリです。なるべくなら、胎内で成長させてあげたいので、もう少し様子を見たいと言うのが、今の現状です。それでも諦めると?』 『はい。』 『旦那さん、1500あるんですヨ?』 『ええ。解ってます。』 風が吹いたら飛ばされそうな、俺の意志。 諦めるって決めたのに… 胸が痛む… 江川先生は、話の矛先を妻に向けた。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

516人が本棚に入れています
本棚に追加