第一楽章 第五十小節

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教会、そこはこの街の中でも唯一の石造の建物であり、高さや広さは30㎡前後と規模は大きくない。 しかし中は綺麗に整列された椅子、柱などには厳かな彫刻が彫られ、とても綺麗なステンドグラスが特徴だ。 五列程並ぶ椅子の最前列にエルミナが座り、目の前に広がるステンドグラスに心を奪われていた。 「きれい……」 彼女の瞳は、心なしか潤んでいるかのように見えた。 そんなエルミナに元気な声が掛かる。 「エルー! そろそろ出掛けようよ。レッツォさんが待ってるよ」 ルヴェンの声だ、彼は教会の入り口の大きな扉を開き、彼女に手を振っていた。 椅子からゆっくりと立ち上がったエルミナはニッコリと微笑み「うん」と小さく頷き彼の下へと歩き出す。 ルヴェンの瞳には、背後のステンドグラスが放つ光に照らされたエルミナが天使の様に見えた。 そんな呆然と立ち尽くすルヴェンに、彼女の肘打ちが襲い掛かる。 それは彼の脇腹に見事に命中し、なんともいえない激痛に悶え苦しむ事となった。 ケラケラと笑い声を上げながらエルミナは教会から駆け出し、ルヴェンに手を伸ばしていた。 「ぼーっとしてるからだよルヴェン! 本当頼りないなぁ」 「待ってエル、凄く痛いよコレ……」 彼は脇腹を押さえながら、フラフラと彼女の後を追う。 この日は三人で街へ旅支度の買い物に出掛ける日だったのだ。
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