第一楽章 第五十小節

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キョトンとするバルバルは二人の顔を何度も見ながら問いかけた。 「なんだ? 何わすれてたんだ?」 「いえ、牧師さんと買い物に……」 元気の無いルヴェンにエルミナが拍車を掛けた。 「ま、まぁなんとかなるでしょう! レッツォさん優しいから」 そんな三人の背後から黒い影が……。 「二人共? 何でこんな所でゆっくりしているのかな?」 その声は低く、怒りの表情とも取れるレッツォの声だ。 「わわ、ごめんなさいレッツォさん! エルが急にこっちの方に来ちゃったもんだから!」 レッツォにより羽交い絞めにされたルヴェンは手足をじたばたさせている。 すると、エルミナとバルバルの甲高い笑い声が広がりだす。 「はは、牧師さん。許してやってくださいな。彼らは芸を見に来てくれたんですよ?」 バルバルが腹を押さえながら笑い声でレッツォの体を掴みルヴェンに加勢している。 我に返ったレッツォがバルバルの方に顔を向けると、彼の表情が一気に硬直したのだ。 どんどん顔色が悪くなり、ルヴェン達が彼の異変に気が付いたの時には、レッツォは青ざめた顔で立ち尽くしている。 「レッツォさん?」 エルミナが心配気に彼の肩に手を触れた瞬間、糸が切れたかの様にレッツォが声を上げた。 「うわぁあああ!! にん……人形!!!」 彼はバルバルの肩に可愛く座るテースの姿を凝視し、驚くというよりも恐怖に怯え、身震いをしている。 2~3歩後ろに下がり、両手で頭を抱えながら彼は地面に伏した。 そんなレッツォの行動に疑問を感じたテースはバルバルの肩から飛び降り、彼の顔を覗き込んでいる。 「ぼくしさま、どうしたの?ボクこわくないよ。ほら!」 と可愛く踊ってみせた。 「止めてくれ、止めて……ください……」 その行動を目の前で見るレッツォは涙目になりテースに許しを求めている。 ルヴェン達も彼の周りにあつまり、何度も声を掛けるが、レッツォは震えるばかりか更に大きな声で叫ぶ。 「止めろ!! 私を、『俺』を許してくれーー!!!」 絶叫が木霊し、彼は暫く硬直する。 すると彼は気を失い、半目を開いた状態だ。更にはだらしなく開いた口からは涎を垂らしているではないか。 「レッツォさん! レッツォさん!!」 ルヴェン達の声も虚しく響き渡っていた。
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