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暫くメロディーに聞き入っていたルヴェンだったが、この音楽の正体が知りたくなり歌い手の近くに足を運ぶ。
すると、男性の声がしっかりと聞こえてきたのだ。
「どこまで行こう? 君の為に。
闇に堕ちし体、取り戻す日まで。
どこまでも行こう、君の為に。
分かち合った愛の宝石求め。
どこまで行っても、君の為に。
罪を背負い生きる、我が身滅ぶまで。
いつか無くした思い出は、君が与えてくれるだろうか」
歌の主はレッツォだ。
彼は歌いながら泣き続け、歌声もひしゃがれテンポもどんどん遅くなっていた。
伴奏のリュートも涙で手が震えているらしく、コードも間違い音階もバラバラ。
「レッツォさん……」
ルヴェンはそんな彼に小さく声を掛けた。
その声に反応したレッツォは、衣服で濡れた顔を拭い優しい笑顔で振り返る。
「や、やぁルヴェン君。起きてたのかい?」
ぎこちない返事だが、ルヴェンは深く詮索しないでおこうと思った。
「大丈夫ですか? 昼間はどうしたんですかレッツォさん」
「いや、心配をかけたね、申し訳ない。少し嫌な事を思い出して取り乱してしまった。」
心配気なルヴェンとすっかり落ち着いたレッツォ。
レッツォは手にしていたリュートをルヴェンに手渡し空を見上げた。
小川のせせらぎと、夜の風が心地よく通り抜けた瞬間だ。
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