26人が本棚に入れています
本棚に追加
Point of view by T.Mizuno
「…やぁーーっっと!見付けたわー」
「…シゲ」
草をかき分けてゆっくり近づいてくるシゲを見て、緊張に乾いていた口から安堵の
息を漏らす。
「─たつ、ぼん…?そんケガ…!!」
「撃たれた。…もう、立てない」
もう、サッカーは出来ない。
もうシゲと一緒にフィールドを走る事は出来ない…。
それでも、この状況でシゲに会えたのは、全く奇跡と言って良かった。
「…俺を、殺しにきたんだろ?」
「…何言うとんの、たつぼん?」
「でなきゃ、あんな明るい声で来るわけないじゃないか。いつもなら何も言わずに抱
きついてくるだろ」
白状しろ、と睨みつけると、泳いでいた視線を下に落として、降参、と肩をすくめ
手を上げた。
「…良く分かっとるわ~。さっすがたつぼん。お見通しやな~」
「バカ言え。…こっち来いよ。もう、前が暗い。寒い…」
言って、隣の地面を力なくはたく。
正直、喋るのも辛かった。
意地をはっていないと、体を凭せ掛けている事すら出来ない。
スタスタと、それでも急ぎ足で隣に膝をつき、痛々しそうに抱きしめられる。
「ごめんな、たつぼんもちょっと早く見つけてやりたかったわ…」
「ん…。ま、生きてるしな。これでも…」
そっと腕をまわす。
小さくキスをしたら、涙がこぼれた。
これでもう、サッカーは出来ない。
死んでしまうのだ。そう思うとやるせなかった。
最初のコメントを投稿しよう!