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「答えられないのに、意地悪な事を言うのね帽子屋さん、だったらチェシャ猫さんの方が幾分も優しいわ」
そう言うとアリスは、帽子屋の腕の中から抜け出し自分の部屋へと、階段を駆け上がった。
「アリス、待ちなさい。」
この時を待ちかねた、と言わんばかりは現れたのは、大きく裂け嫌らしい笑みを貼り付けた何処にでも居るような、何処にでも居ないオレンジ色の毛の猫。
「キシシシシ、大変だねぇ帽子屋殿。キシシシシ、大切な大切な姫君を怒らせて、その隙間に誰が入り込んでくるのかなぁ」
帽子屋は声のする天井を見ようとはせず、ただただ冷たく重たい声音で黙るよう告げた。
「キシシシシ、それはそれは冷たいお言葉。俺が貴方の大切な姫君と遊んでやったと言うのに、骨折りぞんのくたびれ儲け、キシシシシ」
チェシャ猫は喋り終わると、顔を帽子屋に近づけたが帽子屋はただ静に動ず。
「チェシャ猫よ、二度とアリスに近付く事はこの私が許さぬ、これは警告だ」
「キシシシシ、おお何て恐ろしいのだろう。俺は貴方が恐くてしかたがない、だが。いや、故にこれは止められない。あの姫君には何かイカレタ者を引き寄せる物がある。」
「私の警告が、分からなかったらしいな。愚かで浅はかな野良猫よ」
「おやおや、帽子屋さんはお怒りの様だ。ではでは、そろそろ俺はこの辺で失礼させてもらおう。今度は楽しい楽しいお茶会の席にて、キシシシシ」
そう言うとチシャ猫は、軽く高く飛ぶと消えてしまった。
「っつ、あの野良猫が」
チェシャ猫が消えた所を睨み付け、そう呟き部屋に戻ろうとしたのだが、背中に声をかけられたので足を止めはしたものの、決して帽子屋は振り返る事無く耳だけを傾けた。
「帽子屋殿、大切な事を言い忘れていた。姫君に注意することだ、キシシシシ。この世界で一番美しく傲慢なあの御方に、くれぐれも気付かれないようにね。もし気に入られでもしたのなら大変だ、あの甘そうな首を狩られてしまうだろう、キシシシシ。」
笑い声を耳に残し、チェシャ猫は二と現れはしなかった。
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