prologue 怪物の生まれた日

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遠い、遠い、色褪せた記憶。 古い映画の映像のよう。 白と黒の二つしか色を持たず、画面は時々乱れ、繊細さを欠く。 鮮明な思い出だなんて、とても言えない。 それでも、それでも確かにそれは俺にとっての記憶であり、思い出であり、そして。 ――俺から欠け落ちてしまった、過去であった。 「……母、さん」 匂いがする。 「……父、さん」 焼けた匂いがする。 身体中の震えが止まらない。 恐怖していた。 それが何かもわからず、ただ恐怖していた。 焼けた。 死んだ。 消えた。 腐り落ちた。 痛い。 痛い、痛い、痛い――! 「ハァ……ハァ……」 呼吸は荒く、吹き出る汗の量も尋常ではない。 その汗は、周囲に充満している異常な熱気のせいだろうか。 ポタリ、ポタリと、止めどなく滴が頬を伝い、顎から地面に落ちる。 何度も腕で額を拭った。 しかし、こぼれ落ちる滴の勢いは一向に収まらない。 「ああ――」 なんだ。 汗なんかじゃ、なかった。 「う……あ……」 俺は―― 「うあああああああっ!」 泣いて、いたんだ。 ――プツリと、そこで意識が途切れる。 途切れる前の俺の肩書きは、恐らく災害孤児。 しかし、再び目覚めたときに俺の肩書きは―― 存在、しなかった。
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